有時…「時の展開する有だ」。
「刻々が刻々の世界を展開する」
そう。そうなんだな。
刻々が刻々の世界を「展開する」んだ。
ということにハッとして、
これまで、自分は、「刻々」を止めて捉えようとしてきた…
自分にとって「見る」とは、暗黙理に「止めること」「留めること」「固定すること」と同義だった…
ということに気づいて内山興正老師の『有時』を開いて見ると、ちゃんとそう書いてあるではないか。
この『有時』の一番最初には、「肝腎なことはこの『有時』巻に書かれてあることが、一体この自分にとってどういうことなのか−−−−これをまずはっきりさせることだけが大切なので、この的(まと)を外して「思想的に深淵」とおうが、あるいは「思想思弁の話ではない」といおうが、仏法としては全く無意味です。」(15頁)とある。
「一体この自分にとってどういうことなのか」、やっと一歩そこに寄ってきたというところ。
だったらうれしい。
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内山興正著『正法眼蔵ー有時・諸悪莫作を味わう』柏樹社、昭和59年。
(20-22頁)
「古仏言、有時高高峰頂立。有時深深海底行。有時三頭八臂。有時丈六八尺。有時挂杖払子。有時露柱灯籠。有時張三李四、有時大地虚空」
「有時高高峰頂立、有時深深海底行」−−−−通常なら「ある時は高々たる峰頂に立ち、ある時は深深たる海底を行く」というふうに読みたいところです。またそのほうが解りやすい気がするのですが、それだと「ある時は」「ある時は」と連続するじゃないですか。ところがこの「有時」の巻で道元禅師がいわれるところはそうではない。「有時は高々たる峰頂立」と、ここでポツンと切れる。「有時は深々たる海底行」とまたポツンと切れる。
有時というのは、時々刻々だ。そしてその刻々の截断したときがそれぞれ高々たる峰頂立を展開し、また深深たる海底行を展開する。刻々が尽有尽界を展開する。それが有時です。
「有時は三頭八臂」−−−−三頭八臂とは頭が三つ、臂が八本、つまり阿修羅の姿。早い話が田中角栄さんあたりの姿はこれじゃないかと思う。あっちもこっちも頭も手も出している奇怪な姿だ。これも時(じ)の展開する有(う)だ。
「有時丈六八尺」−−−−丈六八尺とは、仏さんは立つと一丈六尺、坐ると八尺だという。つまりこれは仏さんの姿ですが、これも時の展開する有だ。
「有時挂杖払子」−−−−挂杖(ちゅうじょう)・払子(ほっす)は坊さんの持物。昔の中国の山野を歩くには虎や狼などの猛獣から身を守るために、いまお祭りのときの天狗さんがついて出てくるような天辺に金具の輪をいくつかつけた杖を持って歩いた。チャリン、チャリンと鳴らしながら歩けば猛獣たちもさては人間がやってきたなというわけで、あらかじめ避けてくれる。人間という動物はやっぱり昔から一番危険な存在なのだ。払子は馬や牛が尻尾でハエやアブを追っ払うあれと同じです。昔は坊さんもあの毛のついたやつで、ハエや蚊を追っ払ったわけだ。この挂杖払子も時の展開する有だ。
「有時は露柱灯籠」−−−−露柱はお寺の本堂にある裸の丸柱のこと。灯籠もお寺の仏壇両側にある。これも時の展開する有だ。
「有時は張三李四」−−−−張三李四とは、張家の三男、李家の四男といった意味。中国では長子相続が習慣だから、三男、四男はどうでもいい存在、言い換えれば庶民階級ということ。この張三李四も時の展開する有だ。
「有時は大地虚空」−−−−大地虚空とはこの宇宙。この大地虚空も刻々、いま展開している尽有尽界なのである。
「いわゆる有時は、時すでに有なり、有はみな時なり。丈六八尺これ時なり時なるがゆゑに、時の荘厳光明あり、いまの十二時に、一如なるべし。十二の長遠短促、いまだ度量せずといへども、これを十二時といふ」
「いわゆる有時」とは時々の時が尽有尽界を展開しているのであり、いろいろな尽有尽界はみな時々截断した時の風景であるということです。だから丈六八尺、仏さんの姿も、これ時だ。荘厳光明の仏さんの様相も時であるが故に「時の荘厳光明あり」という。結局は刻々の経歴で、刻々に截断している。それはわれわれが普通に生きて住んでいる二十四時間(昔は十二時)と同じで、まさに刻々である。
三頭八臂の奇怪な阿修羅の姿、これもやはり時だ。時なるがゆえにいまの十二時と一如なるべしで、ちゃんと刻々なのだ。田中元首相でも、時には怒って赤くなったり、ギクっとして青くなったりしているに違いない。そんな様相も、つまりはこれは時なりだ。その時の長、遠、短、促(つまっている意)とはどういるものかを、われわれは計って(度量)はみないけれども、常に刻々と動いている。一秒の何億分の一ずつでも、ちゃんと一瞬の休みもなく、かつ前と後とまったく截断して刻刻と動いている。止まるということは決してない。そういうものを我々は十二時という。
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